Our whereabouts 3  |  Matsumoto031

photo|Matsumoto031

photo|Matsumoto031

1

第3話 『思い出』

このままぼくは、音を響かせられないまま、捨てられてしまうのだろうか。
それはとても悲しいことだった。

静寂に包まれた部屋。
『だいじょうぶかい!?』
絶望していたぼくの上から声がきこえた。

ぼくに声をかけたのは、持ち主が絵を描くときに使われていた…なんだっけ…?
確かデッサン?用の手の模型だった。

『ごめんよ。ぼくが倒れた拍子に置いてあったガラス玉をぶちまけてしまった。ぼくは軽い木材で出来ているから、ちょっとしたことでも倒れてしまうんだよ』

彼からは新しい木材の香りがした。

text|Matsumoto031

text|Matsumoto031

2

『あ、そうなの…。』

ぼくはもう彼に興味を持つことをやめた。
彼は絵を描くときの手本となるべく作られた存在だ。ぼくとは何の関係もない。
第一、この部屋にピアノの音が響かなくなったのは、持ち主が美術をはじめたからだ。
だからぼくはちょっとだけ彼のことが好きじゃなかった。
すると手の模型は、ぼくに触りはじめた。
そしてぼくのスイッチをいれた。
『何をするつもりだい?』
ぼくは驚いて彼に話しかけた。

『君は誰かに弾いて欲しいんだろう?ぼくの手は5本ある。固いからちょっとぎこちないかもしれないけれど…』

photo|Matsumoto031

text|Matsumoto031

3

おもちゃのピアノの鍵盤が再び叩かれる日がくるなんて。

何年ぶりだろうか。この音を聴くのは。

久々にぼくの中から響いてくる音は、昔とまったく変わっていなかった。

模型である彼の手は、ぎこちなくも5本の指でキイを叩いて音色を響かせた。

彼の手の小ささは、持ち主のあの子の小さい頃を思い出させた。

彼はキラキラ星を弾いてみせたりしてくれた。

じどうえんそうボタンを押して、ロックやディスコのリズムに合わせて、いろんな曲を弾いてくれた。

photo|Matsumoto031

text|Matsumoto031

【第4話に続く】

4

部屋中が音でいっぱいになった。

『なんでそんなに曲を知っているんだい?』

不思議に思っていたぼくは、彼にきいてみた。

『不思議と音楽が思い浮かんでくるんだ。この鍵盤に染み付いてる思い出かな。きみたちはほんとうに音楽を楽しんでいたんだね。』

そうだった。あのこが一番音楽を大好きだった頃は、ぼくを弾いてたあの時だった。
本物のピアノのレッスンをしていたあの時ではなく。

ぼくは、それを思い出して、とても心が安らぎに満ちていた。

音色は空気の波にのって部屋中に響いた。
【第4話に続く】

photo|Matsumoto031

作成日:2011 年 07 月 28 日

  • 著者:Matsumoto031
発行:Matsumoto031

©Matsumoto031 2011 Printed in Japan

bcck: http://bccks.jp/bcck/40029
user: http://bccks.jp/dept/Matsumoto031
format:DVL_08 #306

photo|Matsumoto031