あだめく朱  |  aoiy

 あだめく朱

 

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 あだめく朱

 「何も、先を急ぐことはないわ。
 だって、キミは分かっているでしょう、
 自分の背中を押してくれるものって、案外シンプルなのよ」
 そう言ってカノジョは微笑むと、目の前に展示された深紅の写真を見つめた。

 

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 写真展の外へ出ると、少し強い風のせいで、花が不安そうに揺れている。
 カノジョもその花も、同じ方を見ている。
 決して、風に逆らうことはない。

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 「・・・・私は、ただ、自分に正直でありたいだけなの。だから、はっきり分からない時は、わかると気づく時まで、きっとずっと、ぐずぐずしているんだと思うわ。
 でも、気づいたら、風のように速く進むことが出来るの。
 まるで、何かに突き動かされているみたいにね。
 でも、その速さが重要なんじゃないの。
 どんなに時間がかかっても、気づくことが出来るかどうかじゃないかしら。

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 それにね、私、後悔はしたくないの。
 そりゃ、苦しい思いもしてきたし、誰かにさせてきたわ。
 でもね、だからって妥協や打算は、するべきじゃないし、そうだと分かる事は、すぐに手放してきたわ。
 それに、・・・終わりにすべき時は、自分でその時を決めなくても、自然に分かるものよ。
 だから、後悔のないように、向き合ってきたの。
 

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 だから、・・・・そうやって、時間をかけてきたぶん、残る思いは、なんだと思う?」
 んー・・・・・切ない気持ち、とか?
 カノジョは僕を見つめて、優しく話続けた。

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「それも、ちょっとはあるけど、そうじゃないの。
 感謝の思いが、残るの。
 だって、そのヒトや、物事に、100%の心使いをしてきたのであれば、何も後悔することなんて、ないから。
 だから、今までありがとう、って、思えるの」

 そう言うとカノジョは、何かを思い出したようで、僕と目が合わないように上を向きながら、静かに涙を流した。

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 ・・・・もし、こんな時、僕が何も言わず、ただ抱き寄せることが出来たら、きっと僕はどんなにかっこいいんだろう。
 でも、すんなりそう出来ない自分が、少し情けなかった。
 
 静かに広がる茜色の雲は、いつか降るであろう雨を含んでいた。

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 夕暮れを過ぎたT駅は、会社帰りの人々が行き交い混み合っていた。
 カノジョはまるで何も心配いらない、とでもいうように僕におどけた顔をして見せた。また食事でも、なんていう僕の言葉が社交辞令のように聞こえる。 そしてカノジョは人ごみの中へ消えていった。
 

 あだめく朱
作成日:2011 年 07 月 21 日

  • 著者:aoiy
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