龍 神 橋  |  AoyamaKazuki

龍 神 橋

咲の顔をみて急に離れたことや、他にも体育館の前や廊下の隅で、ふとした拍子に視界に映ったふたりの姿。
 だが、瑛子の想いを彼は受け入れることはなかった。
「好きなひとがいるんだ」
 そう圭介にいわれた瑛子は悔し涙をのみ、悔し紛れに誰にもいわないという約束で龍神橋にまつわる企みを告白してしまった。
 そこまで聞いた美咲は「何でそこまでして……」と、恋敵といえども親友どうしでのそうした争いごとを哀しく感じた。
「ま、今までどおりに仲良くやって欲しい、というか……」
 圭介もきっと同じように感じているようだ。
 恋する気持ちが思わぬ事態に発展してしまった親友ふたりだが、記憶のない杏奈は別として、瑛子が何かをいいださない限りは美咲も知らなかったことにしてしまえばいい。
 もう済んだこととして記憶の片隅にしまっておこうと美咲は思った。

策した。
 つまり、同じ想いを抱くライバルの杏奈を排除しようとしたのだ。
 杏奈は瑛子の作戦に見事にのり、龍神橋へと向かった。瑛子も怖いのを我慢して二本松の影に隠れて、杏奈が来るのを待っていた。彼女の後をつけて橋まで行こうと思っていたのだ。
 ところが思わぬところに美咲からのメールが届いた。ひとりで心細かった瑛子は美咲と待ち合わせして橋へと向かうことにした。だから、二本松までは美咲の家の方が近いにも関わらず、先に瑛子が待っていたのだ。
 その後の出来ごとは美咲も知っての通りで、杏奈は願いを剥奪され魂のぬけたような日々を過ごしていた。それから察するに、杏奈のなかで圭介への想いが大きかったことを物語る。そうして瑛子の策略は見事に成功した。
 ライバルの脱落したことを確認すると、瑛子は圭介へのアプローチを開始した。
 美咲の記憶のなかでもそれは思いあたるふしがある。教室の前で話をしていたふたりが、美

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 圭介はそこまでいうと、いちど言葉を切った。
 どうしたのだろうと美咲が顔をあげようとしたとき、おでこに暖かくて柔らかい感触があった。
 ——え⁉
 それはほんの一瞬だったけど、だけど……。
 美咲がそれを正確に認識したときには、圭介はもう背を向けて走りだしていた。
 ——キス、されちゃった。
 美咲が呆然として立ちすくんでいると、数十メートル先まで走っていった彼が立ち止まり、こちらに振り向いた。
「忘れないよ、ゼッタイ!」
 圭介はそう叫ぶと大きく手を振って走っていってしまった。
 美咲は身体が固まったまま動くことが出来ず、ただそれを黙って見守っていた。
 心臓がドキドキとして顔が熱くなっている。
 ——どうしよう、明日の終業式。
 もし廊下で会っても、彼の顔をまともに見ら

「うん、わかった」
 圭介が転校してしまうのは残念だが、これからせっかく夏休みに入るのだから、また三人で楽しく過ごしていきたい。
「圭介くんも元気でね。転校しても私たちのこと忘れないで……」
「忘れないよ」
 圭介は美咲の両肩をそっと抱くように手をおいた。そして一歩近づく。
 急に両肩を抱かれた美咲は、ぴくっと身体が硬直してしまう。すぐ目の前に圭介の顔があり、美咲を見つめている。
 見つめられるのが恥ずかしくなって、美咲は顔を伏せる。
「ほんとうは、もうひとつ願いをかけたんだ」
 美咲はとっさに顔をあげ、圭介の瞳をみつめる。何故だか心臓の鼓動が激しくなり、抱かれた肩から彼にそれが伝わってしまいそうで、また顔を伏せてしまう。
「いってしまうと、もう願いが叶わなくなるかもしれないから………」

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photo|Mo Kaiwen 莫楷文

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れそうもない。
 これが恋というものだろうか。
 ——そんな。
 龍神の祠も焼失し、それにまつわるゴタゴタも終わったが、たった今美咲の心に灯された暖かく小さな光はとても消えそうにない。

                                       -了-

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作成日:2011 年 07 月 16 日

  • 著者:青山一樹
発行:青山一樹

©AoyamaKazuki 2013 Printed in Japan

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