faint blue  |  makonomako

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 「あの坊さん君知ってるのですか」
 「あれはなあ、私の兄弟子の了然や。学問も出来るし、和尚サンにもよく仕えるし、おとなしい男やけれど、思いきりが悪い男でナー。あのお道という女の方がよっぽど男まさりだっせ。あのお道はナア、何でも了然が岡寺におった時分にナア、下市とか上市とかとかで茶屋酒を飲んだことのある時分惚れ合ってナア、それから了然はこちらに移る、お道うちへ帰るししてナア、今でもあんなことして泣いたり笑ったりしてますのや、ハハハハ」

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 「了然はばかやナア、あのあほう面見んかいナ。お道はいつやら途中で私に遭いましてナー、こんなこというてました。了然はんがえらい坊さんにならはるのには自分が退くのが一番やということは知ってるけど、こちらからは思いきることはできん。了然はんの方から棄てはるのは勝手や。こちらは焦がれ死にに死ぬまでも片思いに思うて思い抜いてみせる。とこんなことをいうてました。私はお道が好きや、私が了然やったら坊主やめてしもてお道の亭主になってやるのに、了然は思いきりのわるい男や、ハハハハ」

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 と小僧さんは重たい口で洒落たこという。塔の影が見るうちに移る。お道はいつのまにか塔の影の外にあって菜の花の蒸すような中に春の日を正面(まとも)に受けている。涙にぬれている顔が菜種の花の露よりも光って美しい。我らが塔を下りようとかの大仏の穴くぐりをふたたびもとへくぐり始めた時分には了然もわずかに半身に塔の影を止めて、半身にはお道の浴びている春光を同じくともに浴びていた。了然という坊主も美しい坊主であった。」

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