天塩の大地  |  daikonmama

天塩の大地

 

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天塩の大地

神戸で、子どもたちが通学していた小学校付近

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はじめに

神戸に生まれ育った私にとって、
北海道はあこがれの地でした。
あこがれとは夢のようなもので、
旅行ですらなかなか行けない遠い所でした。
結婚して神戸の新興住宅地に住んでいた頃、
5階から見える、団地やマンションの多さに
ぞっとしたのをを覚えてます。
でも、それは、当たり前のことでした。

ところが、1994年に、
その当然だと思ってたことが、
くつがえされ広い北海道に来ました。
きっかけは、夫が見た移住者募集の新聞記事。
北海道天塩町?
はじめて知った地名を地図で探し
家族は即座に、反対。
ところが、夫は熱心に説得をつづけ、
翌年に、天塩の住民になりました。

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天塩の大地から

家の前から見えるとなりの農家

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天塩の大地から

まだ雪が残る3月下旬。
北海道暮らしが、始まりました。
毎日が新鮮で感動の連続です。

親戚も友人もいない土地だけれど、
大自然の変化が、不思議でおもしろくて、
独り占めするのはもったいなくて、
神戸の友人に手紙に書き、送りました。

その1年間の文章を
天塩の広報誌に載せていただきました。



次ページからは、
1995年「広報てしお」掲載分です。

 こんな所だから、車に乗れないとどうにもならないと思って、一昨年の12月に免許を取ってきたけれど、怖くて、一人で乗ったのはこちらに来てから。だから、出かける用事のある時は、悲壮な覚悟がいりますが、なんとか勇気を出して乗っています。
 でも、車の生活に甘んじない人たちもいます.子どもとお年寄りです。たいていの子どもは、学校に行くのも、遊びに行くのも、牛乳をわけってもらいに行くのも歩くか自転車です。
 おばあちゃんも、自転車に乗ってご近所に遊びに行きます。もう腰が曲がっているおばあちゃんも、休み休み自転車に乗って行きます。だから、子どもとおばあちゃんが一番健康的かもしれません。

天塩の大地から

稚内まで約80km・所要時間は1時間。

 なにしろ渋滞というものがないので、まっすぐの道を自分の好みのスピードで走れば、目的地までの所要時間の計算はいたって簡単にできます。ただし、これは雪のない春から秋に限ってのことで、冬で吹雪いたりすると、通行止めになり、まったく行けなくなるらしい。
 時速80kmで走っていても、どんどん追い越される。みんながそんなスピードだから、時速60kmは、やはりほかの車に迷惑なのかもしれません。
 ご近所の家にあいさつに行くのも車、なにしろ、それぞれの農家が広大な牧草地を持っているのだから、お隣といっても住宅がある所までは、歩いて5分ほどかかる。ちなみに、一番近くの店は、車で15分ほど走った所にしかありません。

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遥か彼方の農家が近づいてくる

 一昨年の夏に、家族で下見に来た時、広い牧草地の一角を見せられて「ここに家を建てようと思っています」と説明された時は、とてもここに住むなんて信じられないような何もない場所でした。どちらを見ても牧草地が続いていて、遥か彼方に農家らしいのがぽつんと見えているだけで、人影なんてありません。ところが、引っ越してきた日は、地域の人が十数名、手伝いのために待っていてくれたのです。荷下ろしが終わって、車で帰ってしまうとまるで消えてしまったような感じです。
 後で地図を書いてもらい、挨拶に回って、一応顔見知りになると、引っ越しを手伝ってくれた人たちが町内会の人たちで、ご近所なのだと思えるようになるのです。そして、この何もない牧草地だったのが違って見えてくるから不思議です。

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 「隣だから」と言って、おばあさんがジャガイモをどっさり持ってきてくれたとき、一瞬「隣?」あんなに離れているのに隣なんかじゃないというイメージがあったけれど、今思うと、本当に隣なのです。家の前も、横もお隣さんの牧草地なのです。ただ、住宅のある所までは、歩いて5分ほどかかるだけなのです。
 それにしても、人間的つながりができると、随分違って見えるもので、本当に家の窓から見える隣の牛舎が近く見えてくるのだから不思議です。
 ここは住んでいる人数は少ないけれど、「みんな親戚みたいなもの」だそうです。都会に住んでいても「親戚みたいな」知人は何人いるだろうかと考えたとき、多分ここと同じ位の人数になるんじゃないかしら。
 遠いとか、近いというのは、必ずしも物理的な距離ばかりではないように思います。

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 そして、いろんな山菜が次々と出てきます。ツクシ、ギョウジャニンニク、フキ、ウド、ヨモギ、ワラビ、イタドリ、その他分からない山菜もいっぱいです。
 木の枝も、少し新芽が出たと思うと、どんどん緑の葉っぱを付けていくのです。木もちゃんと生きていたのです。
 冬の間、大地は雪の布団におおわれてじっと力を貯めていたのですね。冬は必ず春になるのです。

大地は生きているんだ

 3月下旬、雪が1mほど積もっているときに北海道にやってきたので、これだけの雪がどうして融けるのだろうかと思っていましたが、まず、木の回りから融けて、それぞれの根元が円く掘れたようになります。そして、一向に融けそうになかった雪も、風が吹くたびに少しずつ融け、本当にあれだけの雪が無くなったのに感心しました。
 雪が無くなり、初めて見る地面の低さに驚きました。1mほど積もっていたのですから、当然なのだけれど、今まで一番低かった道路が、高くなったようで、不思議な感覚です。そして、雪が融けると、いろんな物が出てきます。
 冬の落とし物や、ゴミも出てくるのですが、すべて枯れたように見えていた大地から、まずフキノトウが芽を出します。そして、牧草も少しずつ緑になります。

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キタキツネの家族

 台所の流しの前に窓があります。二重窓の内側を開けて、食器を洗っていると、そこから見える牧草地にキタキツネの家族が遊ぶようになりました。たいてい、朝8時ぐらいに出てきます。お父さんとお母さんと子どもが4匹います。 やっぱり子どもはよく遊びます。始めの頃は、あまり離れないでじゃれあっていて、お母さんが少し離れると、すぐ付いていきました。でも、最近は、少しぐらい離れても平気で遊んでいます。
 表情までは分かりませんjavascript:void(0);が、そのしぐさが可愛くて、いくら見てても飽きません。ところが、この頃姿を見せなくなりました。もう、巣立ってどこかへ行ったのかもしれません。

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 今度はバードウォッチングが楽しめます。ウグイス、カッコウはよく鳴いています。アカゲラ、セグロセキレイ、そのほかいろんな小鳥がやってきて忙しそうに飛び回っています。 それもそのはずです。もともと、木がいっぱい茂ってい小鳥やキタキツネの住処だった所を切り開いて、そこに家を建てたのだから、私たちが彼らの生活の場に侵入してきたよそ者なのです。彼らは、いつもどおりに自分たちの生活をしているだけなのです。

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我家の菜園

 土を耕して、肥料を施し、種を蒔けば可愛い芽が出るのです。
 私は、畑をするのは始めてだし、そんなに好きでもないけれど、ちょっと庭に出れば、取れたての野菜が食べられるというのはすごい魅力だし、第一便利で経済的かな。と、半信半疑で始めました。
 まず「耕すとはどうするのか」という事にぶつかり、何度も役場の係の人との交渉がありました。
 見るからに堅そうで畑らしくない土地があるだけで、スコップで掘ってみると、大きな石にぶつかるし、根っこは張ってるし、近所の奥さんもでんぷん工場の跡地だから、畑にするには5年ぐらいかかるというから、どうしたらいいのか分からなくなりました。

 何回も役場との交渉に明け暮れた結果、町内のWさんが「木を2本ほど切れば機械が入るね」といったと思うと、土を耕す機械(ローター)を持ってきて見事に耕してくれました。
 2日ほどして、Wさんの奥さんが肥料を持って教えに来てくれました。どうってことはないのです。
 枝豆やトウモロコシのように大きくなるのは、それを想定して間隔を開けて種を蒔けばいいし、ほうれん草等は、バラバラっと蒔いていけばよく、土もそんなにかぶせなくてもいいわけです。
 普通に考えれば分かる事なんだけど、収穫できるという自信も、見通しすらないので、何か難しいやり方があるように思い込んでいたようです。

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発芽と霜注意報

 何日かした夕方に、隣のおばあちゃんが「霜注意報が出てるから苗にはフキの葉っぱをかぶしておきなさい」と言いに来てくれました。先生のいう事はすぐにしなければと、私はフキを切って、子どもたちが次々にかぶせていきました。フキをかぶった畑は、とても面白い風景であり、可愛く笑ってしまいました。私たちは畑が小さいからすぐに済んだけど、隣のおばあちゃんは8時までかかったそうです。
 種を蒔けば勝手にできるけれど、やはり、いつも気にし適切な対処をしてやらないとダメなのですね。手のかからなくなった子どものように、常に気を使ってやって、ここという時には即座に対応してやらないといけない我家の娘たちのようでもあります。

 苗で植えたのは、透明の飼料袋をかぶせて風よけを作ります。
 主人は、畑を作れというだけあって、朝晩に時間があれば菜園へ行き、芽が出たかどうか見ます。赤カブが一番早く出ました、次はほうれん草です。一番心配していた枝豆やトウモロコシが発芽したときは、二人で手をたたいて喜びました。「本当に芽が出るんだな」と少しは不信感が和らぎました。

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