定 例 集 会  |  HIRAKI.N

 
 
 

定 例 集 会

 
 
 

平木直人(ひらき なおと)
平成24年10月24日、彼氏でも、彼女でもなく、人類初の完性形/コンプリテートとして生を享ける、というのは、彼の実質処女作の主人公のことで、彼の方は、ある夜、執筆の合間にソファでうたた寝した時の夢が、同時に、現実とも一致してしまうという体験から、夢と現実、愛する妻の二重の幻影、その波間で揺れる彼、というのもまた別の作品の話で、これはこれはいかにもな短編モノだ、ありがち、それでも書いてみた、次はきっと面白いから、という向上心の持ち主こそが著者である。

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Roman

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きたい」
「なるほどね」
「たとえば、俺の場合」
「あ、鶏のなんこつ揚げください」
「おい!」
「あー悪い悪い。お腹空いちゃって・・・」
「まったく不自由なやつだな。欲求に縛られている。実は、俺がしようとしている話もこれに通ずるものなんだが」
「ちょっとタイム。トイレ行ってくる」
「・・・どいつもこいつも」
「あいつを待っていても時間がもったいない。この時間を有効に使おう。ところで、この前の話だがどうなった」
「ああ、あの合コンの」
「聞こえが悪いな」
「そう、俺たちはただ、こういう楽しい場を女子と

男たちは、何食わぬ顔で、まばらなタイミングで、一人また一人と集まった。
「では、はじめよう」
「今日の議題は?」
「自由だ」
「フリートーク?」
「いや、テーマが自由」
「自由というテーマで、自由に論じる!」
「そりゃまた不自由な自由だなぁ」
「まあ、それはある意味、今の日本のキャッチコピィみたいなもんだからな」
「そうだな」
「人が溢れ、情報が溢れ」
「物質の、あるいは、非物質の過剰な豊かさによる環境は自由となり得るのか」
「そんなありきたりな議論は、ここでする意味もない。もっと広義の自由というのをみんなで考えてい

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「どうしてさ」
「あの、ほっけの一夜干し・・・と生一つ」
「相手側のことを考えてもだな、こちらの人数が多いと萎縮したりとかしてしまうだろう」
「たしかに、何か議論になっても平等さに欠けるな。男と女では考え方の根本が違う」
「ま、6人集められないと言うのなら、今回は仕方ないな、と俺は思うよ」
「んあ、ああ、俺も同意見だな」
「そうだ」
「そんなことより、昨日の新聞見たか」
「ああ、今度の政権も期待できないな」
「理想ばかり掲げて、聞こえのいい言葉ばかり並べる。この際、省庁の名前を全部宣伝省にすればいい」
「中国にあるかもしれない」
「スポンサーの国民がいいように騙されてるんじゃ笑えもしないな」

も共有したい。それだけだ」
「そうだ」
「最近、俺たちのようにこうやって、真剣に話し合う場も持つ若者が少なくなってきている。これはとても残念というか、もったいないというか。だいたい」
「で、どうだったんだ」
「無理だってさ。6人も集められないって」
「どうしてそう常識というか既成概念にとらわれるかなぁ」
「いや、でも6人は多いと思うよ、普通」
「だから、その普通っていう観念がどれだけ人を不自由にしていることか・・・。お前は何も分かってないな」
「そうだそうだ」
「どうにかならないの?むこうは5人でもいいと思うけど」
「それは困る」

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「どうだ」
「ふざけてるのか」
「いや、そうじゃない」
「そういう他人任せな人生を送ってるとな」
「これ下げてもらっていいですか。あと、茄子の・・・・・あれ、みんなどうした?」
「こういう何も考えない大人になるからな。こういうやつのもとに生まれてくる子どもがかわいそうだ。俺なら、子どもには苦労はさせない」
「でも、多少の苦労は必要だろう」
「そうだ。多少の苦労は必要。あとは愛情をたっぷり注いでやる。今の子どもは親の愛情に飢えている」
「俺も、精一杯子どもと一緒になって、子どものことを考えてやると思う」
「毎晩の食卓は、みんなそろって」
「こういう議論ができれば」
「最高に素敵だな」

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「だからこうやって、毎月忙しい中、予定を合わせ、これからの日本を築く世代の我々が、わざわざ定例集会を開くのは、とても意義のあることだ」
「異議なーし」
「普段何気なく避けている議論を、こうやって機会を作り、存分にしようではないか、というこのコンセプトはまさに今求められているのだ」
「そうだ」
「昔の学生というのは、放課後は講義の内容について学生同士で意見をぶつけあった」
「そうだ」
「今の若者は、そういった自分の考えを言葉にする、という経験が著しく欠如している」
「そうだそうだ」
「お前はさっきからそうだとしか言わないな」
「そうだ」
「そんなことでいいのか」

「ところで、俺がしようとしていた話だがな、それが家族とか子どもとかそういうこととも密接に関係していてだな、──────」
「どうした?」
「えーと。そうだな・・・」
「お前らしくもない。いつも興味深い話を聞かせてくれるじゃないか」
「そうだそうだ───あ」
「俺たちに話せないことなどないだろ」
「あれ・・たしか、この前、本で読んだ・・その、まあ、俺も常々感じていたことを、その大学の教授がずばり言っていたんだが・・・」
「おお」
「人口の・・・密度の・・・だったかな、ばらつきがどうとか」
「すいませーん!このティラミスパフェってのを一つ」

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「───お、ほら!こいつのせいですっかり忘れてしまったよ。まったくこいつは、いつも食ってばかりだ」
「いや、だってさ、俺たちいつも割り勘だろ?」
少しの沈黙。
「ああ、なんて可哀想なやつだ。食べ物など、金があれば買える。その程度の価値だ。俺たちがこうして、わざわざ毎月集まって、定例集会を開いてるのは、もっと金では買えない貴重な時間を共有することで」
「ああ」
「なんだ?」
「───そういえば、アイツはどうした?」
「・・・ああ。たまに来ても、ほとんど黙っているアイツ」
「アイツの言うことは、ほとんどいつも思いつきだからな」
「理路整然としていない」

「・・・ふーん。やりたいことねぇ」
「一人の世界に閉じこもるというのも、どうかと思うがなぁ」
「今日はちゃんと誘ってやったのか?」
「うん」
「来られないって?」
「いや」
「じゃあ、なんて」
「うーん・・・」
「どうした」
「その、」
「早く言え!」
「暇だったら行く。時間は金じゃ買えないから、って──────」
男たちのあいだにしばらく、それぞれがそれぞれの、思いを巡らせる時間が流れた。誰からともなく、その会はお開きとなり、勇気を持った一人の、

「言いたいことも分からないでもないが、それでは社会で通用しない」
「自由すぎる」
「そうだそ・・、あ。いや。そうだとも限らない、かもしれない。そうだ、今日のテーマってなんだっけ?」
「最近、アイツ来ないよな」
「そういうところも、もう少し周囲と足並みを揃えるというかこう、人は一人では生きてはいけないわけだし」
「あいつも、おそらくそう友だちもいないだろう。月に一度でもこうやって、居酒屋でみんなと話す機会でも持たなければ」
「このティラミスんまい!」
「おい!お前、あいつと連絡とってないのか?」
「ああ、なんかいつも、他にやりたいことがあるから、とかって断られる」

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「今までもそうだったし、アイツもそうしている通り、この会は参加も不参加も自由だからな」という言葉で、定例集会のメンバーは次回以降、一人また一人と減っていくのだった・・・。
それは、男たちの、小さな、自由への一歩であった。

 
 
 
 
 
定 例 集 会
作成日:2010 年 02 月 14 日

  • 著者:平木直人
発行:平木直人

©HIRAKI.N 2013 Printed in Japan

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