雨の日に鳥は 飛ばない  |  aerial.sky

photo | 空の1

雨の日に鳥は
飛ばない

 
 
 
 
 

We can't fly

 
 

義里カズ

雨の日に鳥は
飛ばない

 
 
 
 
 
 
 

義里カズ

義里カズ

We can't fly

 静かに悩んでいる高校生、仁井。同級生の三本木が「空を飛ぶ」と宣言し張りぼての翼を作るのを静かに見守りながら、色々な事を考えつづける。そしてもう一方、「空に住む少女」古瀬。彼女は地上に降りるのを夢見ながら、青い目を持つ『彼』に出会う。地上と空で起こる、二つの物語。


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目次
プロローグ  6章
1章     7章
2章     8章
3章     9章
4章     エピローグ
5章     

PAGE: 68~0

雨の日に鳥は飛ばない
We can't fly
http://bit.ly/cantfly
義里カズ

 

  ●プロローグ

 私は"miss"という単語が好きだ。
 いや、好きというよりは、興味を引かれたというほうが近いかもしれない。
 "miss"という動詞は、それ一語で「その人がいなくて恋しい、寂しい」という意味を持つ。日本語でその気持ちを表現するのには多くの字数を使う一方、英語ではその感情を"miss"という単語ひとつに閉じ込めるのだ。
  ―― miss you so ――
 missという単語に、初めて意味をつけた人がいるとするならば、その人はいったいどんな心で単語に気持ちを託したのだろうか。
 その気持ちが、私に分かる時が来るのだろうか。

雨の日に鳥は
飛ばない

photo | 空の2

 

雨の日に鳥は
飛ばない

  伏せる格好でじっと窓のほうを見ていたら、反対側から声をかけられた。
「ニーチェ、元気してる?」
 私は首をぐるりと回し、声の主の友達に言い返す。
「うぅん、……ちょっと」
 やる気がおきない、と続けようとしたが、やめた。いつものことだからだ。友人は声をかけるだけで満足したのか、てくてくと歩いていった。どうも今日は、テンションを上げていく雰囲気になれない。
 今日の空を見て、私は授業中、メランコリーな気持ちになってしまった。ふと、変な想像をしてしまったのだ。

 いつもと同じ教室。変わらない風景。いつか、この景色が懐かしく思う日が来るのか、それは私には分からない。……いや、たぶんきっと思いだすのだろう。いつかあの高い高い空の上に昇っていく寸前、私が最後に見る景色は、運命の分かれ道とか綺麗な花畑とかでもなく、こんな何気ない日常だったり。本当に心臓が止まっているのか

 

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  ●仁井 1

 授業が終わった教室は、雨が去った道端のような雰囲気が出る。灰色に満ちた周辺を光が照らし出し、隠れていた動物たちが顔を出して騒ぎ出す。人々も、さわやかな顔をして外へ出始める。
 今私がいるクラスも、そんな雰囲気に満ちていた。
 ホームルームが終わり、にわかに話し始めるクラスメイト。窓からは明るい光が差し込んで、黄金のまどろみといった雰囲気が部屋の中に漂っている。私はといえば、会話に参加することも帰り支度をすることもなく、ぼおっと机に突っ伏していた。
 私の席は窓際にあるので、サッシのほうを向き少し見上げるとすぐに空が目に入る。そのせいで、授業中も休み時間もずっと空ばかり見てしまうのが難点だ。ちなみに今日の空はサファイアブルーに近く、雲ひとつない晴天。もっともここ数日は晴れの日が続いているのだけれど。

 

向かっている。すたすたと後者と花壇の間を進むその姿に、私は思わず息が止まりそうになる。周りの音が一瞬消え、私とその人の間にある窓や空気や高さまでがすべて無くなっていく気さえしてくる。前を進むその人、ただ見つめるだけで動けない私。もしやこれは、私が持つ錯覚だろうか。
 ……とりあえず、会いに行こう。私はその生徒を追いかけるべく、立ち上がって机の横のバッグをつかんだ。

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雨の日に鳥は
飛ばない

も分からないまま、天国という世界をずっと過ごすのだ。
 でも、もしそうだとしたら、今ここにいることとどうやって区別をつければいいのだろう。いつもと同じ教室、変わらない風景。それが現世なのか天国なのかはどうやって見分ければいいのだろう。
 もし天国ならば、私の知っている死者がいるかもしれない。数度しか会った事のない叔父さんとか、近所の優しかったお婆さんとか。会えるかどうかまでは、分からないけれど。
 もう一つ、確実な方法がある。現在か天国か見分ける条件。
 天国では、人はそこに居続ける。
 人が死ぬのは、一回だけだから。

 じっとそんなことを考えていたら、窓から見下ろしたあたりの校庭の端を通る生徒の姿が目に入った。
 眼鏡はかけておらず、背は比較的高い。真っ直ぐに前を見つめるわけでもなく、やや下を向いて部活棟の方に

 

photo | 空の2

雨の日に鳥は
飛ばない

  ◇古瀬 1

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DATE:4/11 FROM:Koze.T TO:Nii1212

 おはようございます、ニーチェさん。
 今日はかなり空は綺麗です。サイダーをグラスに注いだときの様な色、というとロマンチックすぎるでしょうか。まるで炭酸の泡のような白い雲を見ていると、どうしてもそういう表現をしてしまいます。

 最近、ニーチェさんの気持ちが沈んでいるのはよく分かります。
 誰しもそういう気持ちになることはよくありますし、もしかしたらそれは自分自身で解決するべきものなのかもしれません。
 ですが、周りの人は、それに対し相談を受けることがで

  ●三本木 1

「どうして、あなたは空を飛ぼうと思っているの?」
 数分後、私はその生徒、三本木と向かい合っていた。
 今日の外は静かだ。風も余り無く、穏やかな空気が学校を占めている。
 部室棟の一階。主に文化部が並ぶその階層の一番端に、天文科学部の部室がある。でも、その部活動の主な活動場所は化学実験室。わざわざこちらまで荷物を置きに来る人はいないので、いつの間にかその部室は物置と化していた。
 そして、その倉庫同然の部屋を勝手に間借りしているのが、三本木だ。
「難しい質問だね、ニーチェ」
 三本木は、私のことを仁井と呼ばない。ずっと「ニーチェ」という渾名で呼ぶ。
 三本木はひたすら自分の作業に夢中だが、私の話は聞

きます。ぜひ、ニーチェさんがよければそれをメールで教えてくださるとうれしいです。元気、出してください。
 写真、ありがとうございました。とても興味深いです。では私のほうも、今日の空の写真を添付しておきます。
 ニーチェさんのお返事とお写真、楽しみにしています。

             コゼットこと、古瀬より

 ニーチェさんへ
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雨の日に鳥は
飛ばない

 

屋に毎日こもりこの翼の製作に拘っているからだ。
 三本木は、空を飛びたい、らしい。
 それも、飛行機やヘリコプターなどではなく、自力で飛ぶことが目標なのだという。話によると、完成した翼を背中に着け、歯車を回して羽ばたくとのことだった。最近はずっと、三本木は空を飛ぶと言い続けている。
 やがて自分の中で考えがまとまったのか、三本木は私の質問に答えた。
「空を飛ぶと言う行為は、大昔から人類の夢だ。現在それは多くの方法で叶えられつつある。だが今でも、人間単体での飛行と言うのは難しい。出来ない夢だからこそ、人はそれに憧れるんだ」
「ふうん」
 よく分からない。ものすごく壮大な話になったことだけは理解できた。
 逆に私は、スカイダイビングなどに興味が無い。というより、あまり高い所には行きたくない。体よく言えば高所恐怖症で、前にビルの屋上に上ったときは五分で取って返

 

雨の日に鳥は
飛ばない

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いてくれる。ひたすらドライバーで螺子を止めようと躍起になりつつ、返答を考えている。
 部屋はおよそ六畳ほど。邪魔なダンボール箱は脇に重ねられ、代わりに三本木が持ってきた色々な物が床に転がっている。木片や歯車、螺子に工具一式。壁には手書きの黄ばんだ設計図が貼られ、空を撮った何葉かの写真も飾られている。何に使うのか、ビデオカメラまで。
 私と三本木は、最近いつもこの部屋にいる。
 そして部屋の中央には、三本木が作った大きな物体が鎮座している。
 大きな、羽だ。翼と表現してもいいかもしれない。大きさは私の背の半分ほど。真ん中の土台から生えた二枚のそれは、すべて木の棒と歯車で構成されている。飛び立つ寸前の白鳥の様に広げられた大きな骨組み。初めて見る人は、適当に接着したオブジェのように見えるだろう。しかし三本木に言わせれば、操作することでそれらが複雑に絡み合い羽ばたくように動き出す、らしい。私はまだその姿を見たことがない。というのも、三本木は今、この部

  ●仁井 2

 部室の窓際に寄り、サッシを開ける。風は相変わらず吹き込まない。窓の外は街並み。学校は比較的高台にあるから、山から見下ろすような景色が見れる。丸椅子を動かしてサッシのそばに座り、今度は空を見上げた。今日は晴れている。
 こうやって空を見ていると、飛びたいという三本木の気持ちも分からないわけではない。雲と同じように、青色の空を漂うことができたら、どれだけ気持ちがいいのだろう。私はそれを想像しながらぼうっとした。
 じっと空を見ていると、コゼットからもらった写真を思い出す。私は携帯を取り出して写真のフォルダを開いた。
 いくつもの写真。私はそれを見て、思わず顔を綻ばせる。一面の空。今日の朝に見た空と、同じ色をした背景に、幾つかの雲が浮かんでいる。そして下の方には、細かすぎて点にしか見えないビル街が見える。まるで、旅客

 

雨の日に鳥は
飛ばない

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した。窓から見るのはいいのだけれど、梯子とかベランダとかになると足が震える。その場所を不安定に感じてしまうのがいけないのかもしれない。足元が崩れて落ちてしまいそうな気がして。
 三本木は地面に敷いた新しい設計図を睨みながら、歯車を組み合わせていた。前に聞いたところによると、カムとか言う機構を使うらしい。授業中必死に設計図を書いているのだろう。
 私はダンボールの横に積まれた丸椅子の一つを下ろし、そこに座った。静かな部屋に、三本木の手を動かす音だけが響く。しばらく、話すことも無いまま、じっとしていた。