デリヘルDJ 五所川原  |  harukichi

 

デリヘルDJ
五所川原

ゴッシー、YOROSIKU。
 職業はもちろんDJ、と言いたい所だが残念。普段は引越しのアルバイトで生計を立ててる。日払いなんで割りと自由というか生活は苦しいというか、まぁ、そんなとこだ。引越し会社がリストラしたとかで、少し前からバイトが減っちゃってさ、時間の空いてる時は渋谷に有るうちの店「アナ専門メチャまわし学園」に顔を出して客待ちもしてる。システムは御一人様九〇分千五百円、三名~九名まで四千円、それ以上は人数×六百円、交通費別。派遣先にDJ機材がある場合は二百円引きで百名以上は五万円ポッキリ。まぁしかしそういう事はほとんど無い。機材を揃えてる店はレジデントつまり常駐のDJがいたり、集客が百名以上もあるハコは名のあるDJで客を集めるからこっちに電話してこない。逆に電話してくるのは機材を持たない個人やオフ会だな。だから「メチャ学」DJは全員、スピーカー付きのポータブルアナログプレイヤーを持っているんだ。これ一台有ればレコードを直で鳴らせるし、二台有れば、まぁDJミックスっぽいこともできる。本当はミキサーが必要だけど、そうすると外部アンプに外部スピーカーも必要になるからね。それまで持ったら重くて出張は出来ない。

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 世界中の野外イベントやクラブをツアーし、帰国してミックスCDやソロアルバムを出したら、また海外ツアー。あぁ人気DJは辛いねぇ……
 と言える日はいつになるんだろう。今はまだ、電話一本でホテルや自宅或いは小さなパーティなんかへ出張してレコードを回すドサ回りDJだ。トム・クルーズになるはずだったのに、どこで間違ったかアダルトビデオのセックスしないブッカケ専門男優(通称シルダン)になってたよ、みたいな。全米制覇のはずがやっとアメリカ村あたりまで来ましたって感じか。
 あ、まだ名乗ってなかったな、耳と心に健康をお届けする、真の意味でのデリバリー・ヘルス。デリヘルDJ五所川原、あだ名は

生産されてない形態だ。マスターに挨拶を済ませ中に入ると、既にDJ仲間が四、五人待機していた。十二畳位の部屋で壁は全てレコード棚になっていて、基本的なジャンルと定番LPなんかは揃っている。色んな客のリクエストに答えなきゃならん商売だから、自分で持ってないのはここから借りたり、仕事が無い時にはかけて遊んだりもできる。よう、元気などと声を交わしオレはソファに座り、DJ達と雑談を始めた。
 トゥルルル……トゥルルル……
 マスターのケータイが鳴る。
「はい、メチャまわし学園です」陽気な声で応対するマスター。
「ええ、多様なDJをご用意させて頂いてますが、どのようなジャンルを」
「えぇ、はい? ノイズ? それジャンルですか? いや、そういうのはチョット……」
 一瞬耳を疑った、ノイズ! 急いで立ち上がり、マスターに大きく手を振る。

人やオフ会だな。だから「メチャ学」DJは全員、スピーカー付きのポータブルアナログプレイヤーを持っているんだ。これ一台有ればレコードを直で鳴らせるし、二台有れば、まぁDJミックスっぽいこともできる。本当はミキサーが必要だけど、そうすると外部アンプに外部スピーカーも必要になるからね。それまで持ったら重くて出張は出来ない。
 うちの店は京王線渋谷駅西口を出て居酒屋がごちゃごちゃと並ぶ細い路地の先、ハチコービルの6階にある。と言っても無店舗営業だから狭い事務所があるだけだ。マスターが電話受付しながら客の好みを聞いて、集まってる俺たちの誰かを派遣するんだ。

 引越しのバイトを終えた夕方、俺は「アナ専門メチャまわし学園」へ向かった。ちなみにアナ専門ってのはアナログレコード専門の略だ。平成生まれの読者には説明が必要かもしれないが、まぁCDになる前の規格って言うか、今は一部のジャンルを除いてほとんど生産されてない形態だ。マスターに挨拶を済ませ中に入ると、既にDJ仲間が四、五人待機していた。十二畳位の部屋で壁は全てレコード棚になっていて、基本的なジャンルと定番LPなんかは揃っている。色んな客のリクエストに答えなきゃならん商売だから、自分で持ってないのはここから借りたり、仕事が無い時にはかけて遊んだりもできる。よう、元気などと声を交わしオレはソファに座り、DJ達と雑談を始めた。
 トゥルルル……トゥルルル……
 マスターのケータイが鳴る。

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「あ、少々お待ちいただけますか」とマスターは保留ボタンを押して
「ゴッシー、何? イケルの?」
 俺は大きく頷いた。
「もしもしお待たせしました。ええもちろんご用意しております! うちのお店に不可能はございません! それでは派遣いたしますが、どちらへ? ええ、ご自宅で。住所お願いします。はい、センダガヤ二ノ五ノ三、ケヤキハイツ二〇三ですね。十五分程度で伺います」マスターは電話に不要な営業スマイルを浮かべ電話を切った。
「ゴッシー、まじでイケルの。レコードある? 俺もうこの仕事八年ぐらいになるけど、初めて聞いたよ、そういうジャンルがあるって。ノイズって何? 音楽?」
「そういうのあるんすよ」と俺はロッカーからポータブルプレイヤー二台とレコードを詰めたバッグを引き出しながら
「一口にノイズって言っても結構幅広くて説明し辛いんでー。まぁ例えるなら、産業廃棄物解体工場の音って感じですかねー。ガシャーンドガガガズゴゴゴビシャーッみたいな。で、そういう騒音ばっかり入ってるLPとかEPがあるんすよ」
「あーそー、昔あったスーパーカーとか単車の排気音レコードみたいなの?」
「え、いや、そういうのあるんすか」

物解体工場の音って感じですかねー。ガシャーンドガガガズゴゴゴビシャーッみたいな。で、そういう騒音ばっかり入ってるLPとかEPがあるんすよ」
「あーそー、昔あったスーパーカーとか単車の排気音レコードみたいなの?」
「え、いや、そういうのあるんすか」
「うん、むか~しね。まぁいいや。住所プリントアウトしといたからすぐ行ってくれる」とマスターはモノクロで出したB5の紙を差し出した。
「マスター、地図はカラーで出してよ~。オレ方向音痴なんだからさー」
「うるさいよ。早く行けっての。お客さんとこ着いたら電話入れろよ」
「へーい。じゃ、行ってきます」と機材を持っち、事務所を出て渋谷駅に向かった。

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グルンッと椅子を回転させ、男は立ち上がった。中肉中背、いや、大肉中背、肥満体型の四十歳ってとこだ。死体写真をあしらった黒いTシャツに肩まで伸びたぐしゃぐしゃの髪。その髪をペイズリー柄のバンダナで巻いている。
「あ、どうも。千五百円だよね」とケミカルウォッシュ・ジーンズのポケットから小銭を取り出し
「はい。じゃあ、やってくれるかな」
 ……久しぶりに見たな、こういうジーンズ。
「あー、おたくさあ、今このジーンズ見てニヤッとしたでしょ。バカにしたでしょ。俺これが好きなの。流行らないからってはかなくなるような人達と一緒にしないで欲しいな。俺これ自分でブリーチしたんだから。見てよほら、タグ、リーバイスでしょ。普通売ってないよ、リーバイスのケミカルウォッシュ。自分でやるの大変よ。そんな事より、さぁやってやって。ちょっと仕事するから、かまわず回してくれるかな」と男はまた椅子に座り直しこちらに背を向けパソコンをカタカタ打ち始めた。

 ■代々木駅で降り、■踏み切りを越え、■ギャラリーや共産党本部ビルが並ぶ通りを抜け、■交差点を渡って左手前の細い道、■左手三軒目。あった。ありました。ありまくりまくりすてぃーケヤキハイツ。階段上がって二〇三と。ホント、体内にカーナビ埋め込みたいよ。インターホンを押す。
「……はい……」
「メチャまわし学園ですー」
「あー鍵かかってないから入って」
 ガチャッとドアを開けて入る。台所とユニットバスが左右にある普通のワンルームだ。一旦ポータブルプレイヤーとレコードバッグを下に置き、靴を脱ぎ、失礼しま~すと言いながら奥の部屋に入った。両サイドにレコード棚五段積み、正面奥右手にはCD棚が天井まで届きパンパンに入っている。奥左手には男が椅子に座りこちらに背を向けパソコンに向かっている。
「お待たせしました。メチャまわし学園のゴッシーです……」
グルンッと椅子を回転させ、男は立ち上がった。中肉中背、いや、大肉中背、肥満体型の四十歳ってとこだ。死体写真をあしらった黒いTシャツに肩まで伸びたぐしゃぐしゃの髪。その髪をペイズリー柄のバンダナで巻いている。
「あ、どうも。千五百円だよね」とケミカルウォッシュ・ジーンズのポケットから小銭を取り出し
「はい。じゃあ、やってくれるかな」
 ……久しぶりに見たな、こういうジーンズ。

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ん? いや確かA面のはず、とシングルに視線を落とすと、B sideの文字が回っている。うっかり裏面からかけてしまったらしい。
「よく分かりましたね。いやー凄いな。僕もこの業界長いですけど初めてですよ、ズバリ言い当てた人は」とヨイショもこの職業には必要だ。
 男はグルッと椅子を回転させ体をこっちに向け、ニコニコとしゃべりだした。
「やっぱレコードはいいよね。そのシングル、俺も持ってんの。B面の方がね、パチパチ鳴る間隔が微妙に遅いんだよ。でさ、リミテッド三十だったけど最初の三枚だけ色違いのカラービニールなの知ってる? 赤と青は手に入れたんだけど、あと一枚、黄色だけがまだ持ってないんだよねー。海外のオークションサイトでも高くてさ。カラービニールは一枚ずつしかないから、買った人が売りに出して、それを買った人がまた売りに出してって感じで土地転がしみたいに値段が倍々ゲームになっててさ。さすがに千ドル越えるとなぁ。だって元が五ドルだよ。うーん……ボーナス出たら買うか……」

わず回してくれるかな」と男はまた椅子に座り直しこちらに背を向けパソコンをカタカタ打ち始めた。
 あ、電話忘れてた。急いで事務所にかける。
「はい、今入りました」
 ケータイをしまい
「えーっとコンセントお借りしますね」と床に置いたポータブルアナログプレイヤー、ハンディトラックス二台にアダプターを差込み、上蓋を外す。
 さてと、まずはスローな曲で行きますか。ステーキをフライパンでじっくり焼いてる音をそのまま録音したシングル盤ヘンリケ・ストイコネン「music for hungry people」だ。A面もB面もほとんど同じ、パチパチジリジリ鳴ってるだけだけど、いいんだよね、これ。限定三〇枚のレアものだから日本で持ってるのオレだけのはず。
「あーいーねー。今B面かけてるでしょ」と男は振り向きもせず背中越しに言った。
 ん? いや確かA面のはず、とシングルに視線を落とすと、B sideの文字が回っている。うっかり裏面からかけてしまったらしい。
「よく分かりましたね。いやー凄いな。僕もこの業界長いですけど初めてですよ、ズバリ言い当てた人は」とヨイショもこの職業には必要だ。

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となぁ。だって元が五ドルだよ。うーん……ボーナス出たら買うか……」
「ボーナスいいですね。どちらにお勤めなんですか?」
「お勤め? 俺が働いてるわけないだろ! 仕送りだよ。ニートだよニ・イ・ト、今流行りの。しょうがないだろ、こっちは働く気があっても世間様が雇う気無ぇってんだからよ」
 いきなりキレ気味の男に気圧されながら、
「あ、あのでも今、ボーナスって……」
「毎月の仕送り十五万だけじゃ苦しいんだよ、だから親に頼んで年二回だけ増額してもらってんの。あ~あ、理解の有る親を持って幸せだよ。ニート万歳。TVヒョーロンカがよ、社会と関われとか現実を見ろとか言ってんだろ、バカか。俺らを社会から締め出してるのはオマエらだろ、その現実をしっかり見てるからこうしてニートするしかないって結論になるんだ。社会と関わらない事でどんだけ社会に貢献してるか分かってんのかね。

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あんたも親に仕送り頼めば」
「両親死んでるんで」
「あ、そう。よかったじゃん。こっちなんか[親孝行したくないのに親が居る]だぜ、まったく。」
 ……チリチリ……パチッ…ジュー……ジュゥゥゥ
 レコードが回り、針飛びしてるような音がスピーカーから聞こえる。肉が焼ける音をレコード化するって頭オカシイよな、絶対。
 一息ついた男は椅子から立ち上がりレコード棚をゴソゴソする。さっきは背もたれで隠れてたけど、男のTシャツはバックプリントも死体写真だ。内臓出てんなー。
「そうそう、取って置きの秘密を君に教えよう。さっき話したシングルの赤盤と青盤なんだけどさ、どうもミックスが違うみたいなんだ。え~っと、確かこの棚に入れといたと……あ、あったあった」
 男は赤いシングルをこちらに差し出した。

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 赤盤を返し青盤をセットし再度針を同時に落とす。……もう一度言おう、同じだ。全く同じ音が左右から流れている。第一、三〇枚しか作らなかったシングルのそのうち三つだけ録音を変えるはずが無い。
 しかし男は目を輝かせて
「ほら、こっちはさ、なんて言うの。寒いような冷たいような音だろ。やっぱストイコネンはさぁ、ミックス変えてんだよ」
 ……それただ単に色の印象だろって内心ツッコミながらもオレは笑顔で答えた。
「そうですね。なんか音違いますね。こうなると残りの黄色盤も欲しくなりますね」
「やっぱ……ボーナスかな……。あ、いかんいかん、仕事すんの忘れてた。じゃ残りの時間DJよろしく」と椅子にドスッと座るとグルッと回りこちらに背中を向けパソコンをカタカタ叩き始めた。
 その後も俺は二台のプレイヤーを上手く使い、音を重ねるようにしてノンストップで色々かけたが、レコードが替わる度にこの男は「おー、虐殺雄奴隷の『アナル・メディテーション』いーねー」だとか、

「そっちのさ、空いてるプレーヤーでかけてくれる。君の黒盤と同時に回せばさ、違いがハッキリ分かるから」
 オレは赤盤を右側にセットし二台同時に針を落とす。クルクル回り音が出始めた。……パチパチッ……ジュウゥゥ……チリチリ……。全く同じだ。肉の焼ける音がステレオで室内に響く。
「ほらほら、やっぱ違うでしょ。おたくの黒盤と違って、赤盤の方がさ、少し暖かい音っていうのかな、なんかちょっと熱いっていうか。な、だろ?」
 ……残念だが左右とも全く同じ音だ。しかしこちらも客商売、
「あー、確かに違いますね。いやーミックス違いが聞けるなんてオレ、ラッキーですね」
 男は気を良くしたのかレコード棚から今度は青盤を取り出し
「ほら、じゃこっちも聞かせようか。ト・ク・ベ・ツにな。さぁ、かけて。こっちも音が違うんだよ」
 赤盤を返し青盤をセットし再度針を同時に落とす。……

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閉店しちゃってさ」
「でも、最近だとネットで知り合い作れたりしませんか」
「友達イネェッって言ったろ!」
「mixi入れねぇんだよ、2チャンは揚げ足取る奴ばっかでウンザリだし!」また突然キレたよ、この人。
 男はふと黙ると、部屋に戻って行った。やれやれと玄関を出ようとしたその時、一枚のシングルレコードを持って戻って来た。
「今日はノイズトークで盛り上がっちゃったから、ボーイスカウト・インフェルノの『camp in your room』おたくにやるよ。俺同じの五枚持ってるから。これ野外で足音だけ録音したみたいでさ。パチッパチッガサッざっざっガサッって。自宅に居ながらにして野外キャンプの気分を味わえんだ。いやー今日は楽しかった。これでまた一年ぐらいは誰とも口利かなくてもやっていけそうだよ。また来年頼むわ。今度はちゃんと指名するからさ。名前なんだっけ」

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「おー、虐殺雄奴隷の『アナル・メディテーション』いーねー」だとか、
「何度聞いても壷焼きデパートメントの『鯨&鶏パート2』はサイコーだよねー」とか振り向きもせず全て言い当てた。メロディもサビもリズムすら無い荒涼としたデスノイズばかりだったのに。
「では時間になりましたので終了します」
 と声をかけ、レコードを袋に戻し、プレイヤーに蓋をして、後片付けを始めた。男はパソコンに向かったまま振り返る様子も無い。俺は立ち上がり玄関へと向かった。
 機材を下に置き靴を履いていると部屋から男がやってきた。
「今日は有難う。久しぶりだな~こんなに人と話たの」
 え、正味三十分も話してないはず。
 男は続けた、
「数年前まではさ、ノイズの専門店があって、そこで会う他のお客さんと二、三、言葉を交わすのがとても楽しみだったんだけど、閉店しちゃってさ」