帰りたい場所  |  E.Kaba

 

帰りたい場所

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 水平線の向こうからゆっくりと太陽が昇ってくる。
 新しい年最初の日の出だ。
 人気のない海岸でもじっと見詰めている二つの人影があった。
「あけましておめでとう」
「おめでとう」
「今年も一年よろしくお願いします」
「ああ……」
 声を掛けられた一人は太陽を見ながら気のない返事を返した。
 二人の吐く息は真っ白で、声を掛けられた一人がため息をついたのも分かった。
「ちょっと、お正月なんだからもっと明るくやろうよ」
「そうだな」

 声を掛けられた一人はそう言ってコーヒーをあおった。温かいコーヒーで心も温めようという考えらしい。
「でも、今年もここで新年を迎えることになるとは思ってなかったな」
「本当。もう一年経っちゃったんだもんね」
「あのとき『旅行に行こう』なんて思わなかったら今ごろどんな正月を迎えてたんだろうな」
「そうね。でも、ここに来なかったら新年を祝うなんてことも知らなかったんじゃない?」
「そうだな」
 声を掛けられた一人はもう一度コーヒーをあおった。
「ちょっと、また飲むの?」
「お前も飲むか?」
「いらない。私、あんまり好きじゃないもの」

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「そうか? 俺はここに来て一番の収穫はこのコーヒーだと思うけどな」
 声を掛けられた一人は太陽にコップを掲げて、またコーヒーをあおった。
「ちょっと、コーヒーばっかり飲んでないで少しは状況を考えてよ。私たちは初日の出を見に来てるのよ」
「だから太陽に乾杯してるんじゃないか」
 声を掛けられた一人はもう一人に言い返した。
 どうももう一人はもっとロマンチックなことを考えていたようだが、声を掛けられた一人はそこまで考えてなかったようだ。
「いい? 『初日の出』って言ったら『新年の抱負』でしょ?」
「『ホーフ』?」
「そう。私たちが初めてここに来たとき、あなたは私に約束してくれたじゃない」
「え? そんなことしたか?」

 もう一人は素早く声を掛けられた一人から魔法瓶とコップを引ったくった。
「おい、何するんだよ」
「ここに来たのは飲むためだけじゃないんだからね」
 もう一人は怒ったように言って魔法瓶とコップを片付けてしまった。
 そして、もう一人はもう一度ロマンチックに話を再開する。
「いい? あのときは丁度満月で、私が落ち込んでたのは覚えてるでしょ?」
「あ、ああ……」
「あのとき、泣いてた私にあなたは約束してくれたじゃない?」
「そ、そうだったな……」
 声を掛けられた一人もようやく思い出したようだ。腰が引けていたような態度が次第にしゃきっとしてきた。
「あのとき、俺は格好良かったろ?」

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「そうよ。だから、あのときみたいに初日の出に対しても『今年こそ船を直して月に帰る』って約束してほしいのよ」
「それぐらいおやすいご用さ」
 声を掛けられた一人は力強く断言した。
「でも、『新年の抱負』が初日の出に対してするもんだったとは知らなかったな」
「え、違うの?」
「まあ、どっちでも良いんじゃないか?」
「そうよね。初日の出に対してした方がロマンチックだものね」
 もう一人はうっとりしたように言い、今年も新年の光が二人の宇宙人と不時着した円盤を輝かせていた。

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初めまして、E.Kabaです。
主にホームページでSF小説を書いていて、今回、BCCKSで本を作ってみることにしました。
まだ始めたばかりですが、少しずつ慣れていきたいと思っています。

『kaba's village』
 http://www.jsdi.or.jp/~kaba/

帰りたい場所
  • 著者:E.Kaba
作 成 日:2009 年 05月 04日
発   行:E.Kaba
BSBN 1-01-00023927
ブックフォーマット:#321

 

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