広報室が 行く  |  zenryu

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漠然としていた商品開発に
コンセプトコピーで具体化

 同じころメーカーが出す広告、つまり商品広告もマスコミを通じて行いました。新聞やテレビで全国的展開できるほどの予算はありません。そこで電車の車内広告に目をつけました。「いいちこ」という焼酎が大分にあります。この焼酎はデビュー当初、主要駅の駅貼りポスターだけに絞って広告していました。都会のサラリーマンが毎日通う主要駅に大きなポスターを、有名写真家を起用した素晴らしい写真表現で展開していました。自然の中に透明の瓶に入った焼酎がさりげなく置かれている写真です。写真の出来がいいので次のポスターはどんなものが貼られるのだろうと電車通勤族の僕は期待していました。現代仏壇の商品広告を考えるとき、この「いいちこ」の広告戦略を最初に思い浮かべたものです。
 東京と大阪の交通広告を長期契約で行うのです。大阪地下鉄全線、東急、小田急電鉄で額面広告を実施しました。やはりコピーは「仏壇のあるリビング」です。3~4カ月ごとに表現を変更します。現代仏壇のあるおしゃれなリビング写真を展開していきました。バブルの風は通り過ぎたあとでしたが、面白いように売れていきました。やはり時代のニーズに合っていたのでしょう。

 商品開発者が、漠然と心に抱いていた仏壇に対するイメージ、つまり洋風で今までになかったシンプルなデザイン、過去のルールにとらわれない考え方、家具のような形、材質にもこだわらない、そんな思いを「仏壇のあるリビング」というコンセプトコピーに置き換えたのです。こうして言葉にならなかった思いを広告で具体的に表現することで、さらに商品開発がしやすくなっていきました。
 販売の方面でもこの言葉をセールストークにすることができました。こういう風に四方八方にこのコンセプトコピーが広がり始めました。ヒットコピーは、わかりやすくてシンプルで展開がしやすい要素を持ち、しかも消費者、ユーザーに共感を与え、さらに商品開発のテーマにもなって社内スタッフをも先導していきます。

 そのうち売れている商品ということでお彼岸やお盆の時期には、マスコミが取材に来てくれるようになりました。新聞やテレビでは「なぜ売れるのか」とか「元気な企業の秘密」というテーマで取材があります。インテリア雑誌では、リビング特集をする際に現代仏壇を借りに来ます。テレビや映画のドラマにも小道具として使われました。
ところで取材の際、私は必ず記者に向かって
 「あなたは仏壇の前で手を合わす対象は何ですか」と逆に質問します。
 これが私のマスコミに対するオリエンテーションのファーストトークです。今までこういう質問はされたことがなかったのでたいがいの人は首をかしげました。仏壇の前では、手を合わすことが当たり前だから誰もそういうことを考えたことがなかったのでしょう。
 「答えは、御本尊に手を合わす人はあまりいませんよね。正解はご先祖じゃないですか」というとなるほどと頷かれます。
 だったらこれは仏壇ではなく、先祖壇と呼ぶほうがふさわしいのでは。自分の家の宗派も知らないで御本尊を拝むわけにはいきません。そして手を合わす対象は、先祖でも自分により近い父や母、祖父祖母といった身近な人ではないでしょうか。

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2000年

マスコミへのトーク

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訊かれたら答えるのじゃなく、ニュースをこちらから提供しているんだという姿勢。

 70~80年代になると、若者は都会に働きに出て地方の過疎化が起こってきます。コンクリートのマンションに住み、モダンな家が建ち、生活も豊かになり和室を持つ家が少なくなってきました。人々の宗教観も変わってきました。大部分の日本人は、お彼岸お盆にはお墓参りには行きますが、お寺参りには観光でしか行きません。お寺や仏壇に対するとらえ方がずいぶん変わりました。
 このように都会に住む家族が新しく増え、仏壇を持つ家庭が少なくなりました。地方では過疎化が進み、仏壇はあってもそれを引き継ぐ家庭が減少していきます。地方の仏壇を都会で引き継ぐには、住宅環境の違いから新しく買い替えなければなりません。ここに現代仏壇のニーズが生まれています。 
 話は少しずれますが、昔、仏壇の前は子供をしつける場所でした。学校の成績表を仏壇に収め、ご先祖に報告していました。それが現代では子供のしつけや教育はどのように行われているのでしょうか。

 さらにお墓参りには行くけど、お寺参りには行かないでしょう。お寺に行くとしたら観光が目的でしょう。お寺の役目って一般の人々にとって何なのだろう。誰も期待していないような気がします。それならお寺のルールをそのままま持ち込む従来型の仏壇の役割は現代では終わっているのです。自分たちの生活空間に合わせて仏壇も変えた方がいい。
 仏壇の日本の歴史は飛鳥時代から始まりますが、一般庶民の家に普及したのは江戸時代でした。長い平和が続き、大工道具が発達し、その上キリシタン禁令と全住民の戸籍を把握するための寺請制度が作られ、全家庭に仏壇が置かれるようになりました。これが現在の従来型仏壇の流れの始まりです。そして次の仏壇ブームは第2次世界大戦の後、1950~60年代にやってきました。戦争でたくさんの人々が亡くなり、やがて高度経済成長期を迎え日本列島改造論のおかげで、日本のすみずみまで道路ができ家が建ちました。仏壇店は田畑をつぶして道路工事をしている農家を見つけると、その補償金で大きな家が新しく建つため、仏壇のセールをかけました。農家は、今のマンションと違って開放的で飛び込み訪問するのも簡単です。何百万円という仏壇が飛ぶように売れていきました。こうして全国2、000万軒の家に仏壇が普及しました。
 

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2000年~

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「ハレ」のステージに上がる仏壇。
大阪国際見本市に出展。

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2000年5月

 大阪見本市に出展することになりました。たとえばレジャー、建築、車、家電製品等いろいろな生活カテゴリーに分かれていて、現代仏壇は仏壇、葬儀、お墓の業界のセレモニー会場に入ります。現代仏壇が参加のするのは初めてですが、最初からいきなり自社でオリジナルのステージを作ることができる広いブースを確保しました。面白いのは会場の奥にいろいろな霊柩車が展示されていました。ゴールドの昔からの屋根を持つ物々しい車や、シックな黒塗りで、ハワイのタクシーのようなリンカーン型のものなどもあり、ここまでたくさん並べられると、こわいのか面白いのか、壮観なのか、よくわかりません。また従来型仏壇店も出店しており、いくつか仏壇を並べているのですが、僕にはどの仏壇も同じように見えてしまい区別ができません。しかし全体が地味なブースで現代仏壇だけが目立っていました。

 「ご先祖に見られているから悪いことはできない、罰が当たる」という教え、これは決して迷信なんかじゃなく人間の生き方の基本ではないでしょうか。その基本が失われつつあるのが現代です。和室や仏間を持たない現代人が増え、先祖への畏敬の念が薄れたため、日本が壊れつつあるような気がしてなりません。心の拠り所となる先祖壇を今こそ認識する時が来ています。それが現代仏壇なのです。人々がたくさん集まる場所、つまりリビングルームに仏壇を置き、毎日ご先祖と会話をする習慣をつけ、子供のしつけを行うこと。これが現代仏壇の考え方なのです。
 以上のようなことをマスコミに向けてオリエンするわけです。

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 さてどんなイベントをするのか。目的は現代仏壇の考え方の普及です。「仏壇のあるリビング」をテーマに自由に祀ることの素晴らしさを訴えます。仏壇という陰気で暗いイメージを払拭し、明るく、楽しいイメージにします。仏壇離れはそもそもこの暗い怖いイメージから来ているのだと思ったからです。仏壇とは亡くなった方にこの世で生きている者が感謝し、その人の人生を思い慰め、自らの生き方を反省し明日の自分の生き方を考えようとする大切な場であると思うのですが、これが暗い陰気な雰囲気になってしまっていて、なかなかなじめず、近寄りがたいものになっているような気がするのです。
 「ハレ」と「ケ」という言葉がありますが、現代仏壇を人が楽しく集まる「ハレ」のリビングルームに進出させ、小さな子供たちに身近に感じさせるものになればいいなと思ったのです。仏壇は子供のしつけや教育の場でもあります。子供が悪戯をした時には仏壇の前で叱ったり、学校の成績表をもらった日には、親子でご先祖に報告するという習慣を、現代仏壇を通して見直してほしいという気持ちを持ちました。

 以上のことをどのように演出するか。まず従来型の陰気なイメージからの脱却です。明るくスマートな雰囲気、今までになかったような演出をしよう。楽しくてにぎやかに呼び込みをしよう。仏壇離れが激しい10代20代の若者たちを使って、歌と踊りで仏壇まわりを「ハレ」の場にしようと思いました。
 幸いにして僕が10年以上も前からかかわっている四国のアークアクターズスクールを経営しているプロダクションがありました。そこのスクール生は発表の場を求めていました。彼らの歌を作ったり、芝居の脚本を書いたこともあったので、そのプロダクションにステージ作りやイベントの進行を依頼したのです。デビューしたばかりのタレントたちも気持ちよく出演してくれました。オリジナルで書いた「銀河ステーション」という曲に、天使のイメージで歌とダンスに協力してくれました。地味だった会場にこのブースだけが目立っていました。白をベースにしたステージに現代仏壇を目の高さに並べ、またリビングルームも作ってイタリア製の現代仏壇を置き、スタッフが考え方を説明しました。そして70ページもある総合カタログ「GAT ROOM」を訪れる人々全員に配りました。読み応えのある雑誌のような本なので棄てて帰るわけにはいきません。

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付加価値の高い商品カタログを
作ろう。

総合カタログ第1号 Gatroom

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2001年1月

 入社して半年が経ちました。それまではチラシ作りに追われていたのですが、翌年1月に発行する総合カタログ作りの仕事が入ってきました。まだ半年しか経たず、広報の年間活動スケジュールもはっきりせず、夢中で仕事をしていたのですが、この作業のおかげで企業をある程度理解することができるようになりました。それまでのカタログ作りは開発室長(当時は部長)と社長が中心になってやっていたのですが、それを広報企画室(部)で全面的に受けることになったわけです。といっても僕の入社時に広報企画部ができたわけで最初からこういうことをすることになっていたのです。
 まず予算を尋ねました。昨年は制作印刷コストがいくらかかったのか。そのコストの範囲内で今までになかったようなびっくりするようなカタログを作ろうと考えました。クリエイティブ出身だから前年度の予算内で、少なくとも同じものを作るなら2/3のコストで作る自信がありました。総合カタログのコストは、印刷費と制作費がだいたい1/2に分かれます。そのうち制作費の利益はほとんどが人件費ですから、その企画制作部分を社内で行えばその利益分は大幅に抑えることができます。印刷費も15%はカットできると皮算用。そう考えながら前年同予算でハイクオリティーのものを作ろうと考えたのです。

 そのなかで現代仏壇の八木会長が書かれた仏壇の考え方、「魂棚」の話が圧巻でした。「魂棚」というのは民俗学者の草分け、柳田國男さんの「先祖の話」に書かれていたもので、仏教が日本に入ってくるよりもはるかに昔、つまり弥生時代のころから日本人は、自分の家に簡単な棚を作り先祖を祀っていたという話です。仏教が入ってくるよりも前の話ですから、仏壇とは言えません。これを「先祖壇」または「魂棚」と呼んだらどうかという意見です。この「魂棚」という概念は数年後、建築家の皆さんと話したことがありますがとても受けが良かったです。現代仏壇はまさにこの「魂棚」がルーツになっているのです。会長のこの発見が現代仏壇の開発の大きな原動力になったわけです。

見ごたえ、さらに読みごたえのあるカタログ。

 今までの新商品を大きく紹介する「見ごたえのあるカタログ」から「読みごたえのあるカタログ」へ転換しようと考えました。ただのカタログではなく、本のように読み物の要素を取り入れたものです。そうした方が読者が増えるだろう、次号も読んでみたくなるもの、そんなものが作れればいいなと漠然と考えました。幸いにして僕のまわりには、仕事上、一流のコピーライターやタレント本などを手がけるゴーストライター、グラフィックデザイナー、脚本家、映画やCM監督等知り合いがたくさんいます。この中から気の合う仲間や、何か手伝ってもいいぞというスタッフを頭の中で数えました。しかしこれはあくまでも営業用カタログなのであまりに風変わりなことはできません。
 数人から「仏壇」を題材にしたエッセイを書いてもらうことにしました。テーマは自由です。僕も名前を変えて数人分のエッセイを書きました。いろいろな職業人になって「仏壇」を題材にして書いてみるのって面白いですね。こういうエッセイを集めて仏壇の各「商品シリーズ」のページの前に挿入しました。また前に紹介したような「仏壇の歴史」や、「現代仏壇のルーツ」をたっぷり紹介するページを前半部に作りました。

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魂棚の紹介ページ

 このように漠然と思っていた概念、気が付いていたけれどまだ自分の近くの人にだけしか伝えていないものを、明確に「言葉」で表現して広告物にして伝えてしまう、また経営方針までも一般読者側から読まれてもいいようにアレンジしてPRしてしまえば、さらにより深く社内スタッフに浸透していきます。こうして現代仏壇の開発方針、販売方針がこの総合カタログを通じて広く行き渡りました。特に従来型を頑固なまでに売り続け、一歩も引かない一般小売店の店主にまでも現代仏壇のあり方が徐々に知られるようになっていきます。
 この本のタイトルをGAT ROOMと名付けました。たくさんの人が集まる部屋という意味の GATHER 新しい生活を見つける GATE みんな一緒にという TOGATHER こういった意味合いを持たせました。僕が勝手に黙って付けて表紙にしました。誰かからクレームが来るだろうと思い、身構えていたのですが誰からも異論はありませんでした。どうでもいいと考えたのか代案が思い浮かばなかったのか、本の内容に圧倒されたのか、あるいはただ無視されていたのかよく分かりませんが、ちょっと物足りないなと感じていました。
 

総合カタログ
GAT ROOMの誕生

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