◇・題詠・◇ 2009→2011  |  flatkotori

079:恥
俯いたうなじ おくれ毛 耳たぶがまっ赤に透けて恥らっている

080:午後
空の青がゆらめいている湯に浸かり夢みるように午後をたゆたう

081:早
早朝の薄蒼空にたよりなく貼りついている三日月しろく

082:源
一日の疲れを背負って源を探れもしない眠気に沈む

083:憂鬱
憂鬱をうすぼんやりとながめれば憂いの林に呑みこまれゆく

084:河
鉄橋を渡るときには席を立つ 一級河川に夕日が散るよ

085:クリスマス
凍りつく夜空ぼんやり光ってた 君と一緒じゃないクリスマス

086:符
歩くには八分音符は速すぎてリズムを刻む余裕もなくて

087:気分
ぽかぽかと水もぬるんだ川の午後 気分屋さんのあひるがあくび

088:編
ミステリの神さまの編むアンソロジー 罠に嵌って悶える至福

094:彼方
オレンヂをふたつ並べて泣いていた 彼方にゆれるヘッドライトは

095:卓
アリーナの隅からさえも追いやられ卓球台に雪は降り積む

096:マイナス
人生って上手い具合にできている マイナス×マイナス=プラス

097:断
溺れてもいいのだろうかどっぷりと できないならば断てないならば

098:電気
わたしだけ温もればいい雨もよい 電気ストーブ ヂリリと吐息

089:テスト
よりかかるための強度を試してる テストケースじゃまだまだ不安

090:長
おわらない受話器の向こう 長い夜 すべて吐き出すまでおわれない

091:冬
柊の赤い実灯る路地裏に冬の白さを確かめにゆく

092:夕焼け
熱いほど熟して太りおひさまは夕焼け空を残して墜ちる

093:鼻
杉ばかり悪者になる春がゆき稲穂が鼻をくすぐる季節

099:戻
木枯らしに押し戻されて羽ばたきに力をこめる どこ行く鴉

100:好
声が好き 春のそよ風夏緑木枯らしの道 肩を並べて

001:春
装飾をひとつひとつと剥ぎ取って萌えだす春に耳を澄まそう

002:暇
さあそれじゃお暇します 如月にながし目おくり冬がそろりと

003:公園
公園は小さくなってあのころとちがう瞳の子らをころがす

004:疑
良心はすました顔をしているか 疑わしきは罰せられない

【題詠blog2010】投稿歌

005:乗
ターミナル駅で支線に乗り換える 梅の香が鼻をかすめる

006:サイン
春のサイン届け届けよ カワセミは魚を贈る凍てつく二月

007:決
したつもりだった決心道端の石ころ蹴ってもう揺らいでる

008:南北
南北に伸びる街路が薄桃の帯になる春 駅を背にして

014:接
遠巻きに様子うかがうほどがいい 接近戦には向いていません

015:ガール
生き方はいつでも心持ち次第 奥田英朗の『ガール』のように

016:館
図書館の開架の本のすきまには見えない声がひしめいている

017:最近
そういえばきょうは使っていなかった 最近覚えたばかりの言葉

018:京
呼吸だけ律儀につづけ垂れこめる雲に圧されて黙る東京

009:菜
蛍火で根菜を煮る たぷたぷとだしを含んで幸福となれ

010:かけら
たったいま入り日は山の端に沈み夕焼け雲はちいさなかけら

011:青
薄味に仕立てただしで煮るうどん 青々と葱のせて喜ぶ

012:穏
穏便に済ませつづけてきょうはこのピースをどこに嵌めこめばいい

013:元気
起きぬけに船底にいる心地して 元気なふりはしないですごす

024:相撲
ぎりぎりで踏ん張れそうで繰り返す 独り相撲とわかっていても

025:環
一時間歩けば8000歩あまり 環状八号線を渡って

026:丸
花曇りの一日を追えてペンを取る まず二重丸 日付の横に  
#一日=ひとひ

027:そわそわ
心持ち定まらなくてそわそわと同じページを何度もなぞる

028:陰
陰口は朝靄のなかとけだして哀しい色でぽとりと落ちる

019:押
哀しみは熟成されたころかしら閉めっぱなしの押入れの奥

020:まぐれ
気まぐれな春が一日やってきてほころびかけた蕾が照れる

021:狐
さあさあと光を透かし雨が降る(狐が嫁ぐ)雲がうつろう

022:カレンダー
来年のカレンダーにはきみのこと書けるだろうか 天気雨降る

023:魂
魂を吸いとられそうな心地してあわてて閉じる 青が眩しい

034:孫
孫悟空は暗喩だろうか『SOSの猿』が言いたいことを想えば

035:金
暗闇で獣のかたちしたものが金の眼で我を窺う

036:正義
照りかえるアスファルト道もくもくと正義の人は淋しくひとり

037:奥
耳の奥 知らないはずの声がしてあの日のことを責められている

038:空耳
からからとだれか笑った 空耳を空耳として憶えておこう

029:利用
再利用できそうもなく朽ちてゆく後悔だとか失言だとか

030:秤
愉しいは左苦しいは右 ゆれる天秤 悩ませてごめん

031:SF
SFの表紙に指をかけながらためらう心地に少し似ている

032:苦
気がかりがひとつ過ぎてもまたひとつ 母というのは苦しい生きもの

033:みかん
暮れてゆく まぶたもみかん色に染め 藍の帳はまたたくうちに

044:ペット
ほとばしる 水 水 水 を受けとめる ペットボトルの水はさみしい

045:群
街にいて透明になる時がある 群像劇を観ているみたい

046:じゃんけん
じゃんけんで決めればいいね最後には なにを言っても恨みっこなし

047:蒸
蒸し暑い路地を茶とらがのったりと歩く わたしは追い越せなくて

048:来世
いまのこの取るに足らない安心に来世のことはまだ想わない

039:怠
胸のなか何回だってくりかえす怠けるための言いわけひとつ

040:レンズ
曖昧にしておきたくて不自然にならないようにレンズを拭いた

041:鉛
青だけがいつもちいさい 箱入りの色鉛筆はもう買わないの

042:学者
数学者の美学は素敵 同じには思えなくても想ってみてる

043:剥
丁寧に剥かれた皮を花にする 甘夏柑の匂いの指で