夏休みがおしえてくれる  |  davinci

世間一般でいうところの夏休みが終わるまでに———すなわち八月が終わるまでに、なにかしらの行動を起こそうと決意していたことを遠い昔のことのように耕太は思いだしながら、店内に流れる「スロウ・デイズ」の歌詞を声に出さずに口ずさんだ。

  長い長い夏休みは
  終わりそうで終わらないんだ

「別人になる夢を見る/子供の頃の顔をする」と歌詞はつづき、耕太もそのくだりまで心の中で歌いながら、そういえばフリッパーズ・ギターは「ほんとのこと知りたいだけなのに/夏休みはもう終わり」って歌ってたな、なんてことをぼんやりと思う。終わるんかな、それとも、終わりそうで終わんないのかな? どっちかわかんないけど、小学生のとき夏休みがはじまったばっかりのころに感じた、

休みが尽きることなくあって、このまま夏休みが終わることなく、ずうっとつづいていくように思ったあの感じは好きだった。あの感じは好きだったけど、いつもカウンターの奥の席に坐り文庫本を読んでるあの女の子との関係がなんの発展も見せずにこのままずうっとつづいていくのは、どうなんよ? なんとかできんもんかね、とも思った。ただ、どうにもならへんと半ば諦めつつ、あの女の子はきょうもおるかなあと期待をふくらませながら毎週末に本田さんの店に通うこの感じは、終わりそうで終わらないこの気分は、なんとなく好きだった。
 彼女が立ちあがった。モヒカンの青年がノートパソコンのモニターから目を離し、そちらのほうを一瞥(いちべつ)する。曲は「スロウ・デイズ」から四曲目の「サニー・ブルー」に変わった。
 どうしようもないと思いながらも、どうしようかと耕太は考えた。だけど、どうしようとあわてながらも、

 

夏休みがおしえてくれる

ブンゲイ ダ・ヴィンチ
ブンゲイ ダ・ヴィンチ

どうしようもないよなと変に諦めたムードもあったりして、なんにしてもまた来週来るんやろうなあ、と他人事みたいにそんなことを思った耕太のその後ろを、会計をすませた清美がとおっていく。
 店の扉が開く音につられるように、耕太はそちらのほうに顔を向けた。八月は二日前に終わっているからいまは九月で、その「八月の光」ならぬ九月の刺すような西日が扉の隙間から見える。彼女の背中越しにその光をまぶしそうにながめながら、夏休みももう終わったんだな、とあらためて耕太はそんなことを思い、顔をもとにもどすと残りすくなくなっていたミックスジュースを一気に飲みほした。
       ———  了  ———
                   (続)

 

夏休みがおしえてくれる

第11回を読む

中川 充

Mitsuru Nakagawa

夏休みがおしえてくれる
  • 著者:中川 充
作 成 日:2009 年 03月 19日
発   行:中川 充
BSBN 1-01-00023134
ブックフォーマット:#429

なかがわ・みつる●1977年、奈良県生まれ。2006年、ネット上に掲載された短編『POKKA POKKA』への読者投票を経て、第1回ダ・ヴィンチ文学賞編集長特別賞を受賞。07年に初の単行本『青空チルアウト』を、08年には文庫『POKKA POKKA』を刊行した。

 
 
 

 
 
 
中川 充

 
 
 
Mitsuru Nakagawa