hello_mister?  |  satopom

 

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01

 

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hello_mister?

01 昼どき 02.蛙
03.相手 04.コンクリートジャングル
05.鼻 06.秋刀魚
07.ジャック 08.野良猫
09.遊び 10.太陽
11.消える 12.空欄
13.私と亀と。

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昼どき

「いや、なに。あなたの手の中のおにぎりと何も変わりはしませんよ」

「あら、キミのおにぎりはかなりおいしそうですね」

 花が咲いているなと思いきや、それは造花だったりするので、日が沈んだ頃の冷えた空気に、あぁ秋だな、と体を震わせなければ、コンクリートジャングルの中は季節の移り変わりを全く感じられず、25階の決して開かない窓の向こうは薄い雲の筋が浮かんでいるので、入道雲じゃないから夏ではないなと心もとない判断をするが、本当は夏であるとも夏ではないとも言い切ることに気が引けて、な
んとなく夏ではないかもしれないなと思わせるそんな空の下、雨蛙がどこからか現れてひび割れた歩道を交互に足を動かして、跳ねもせず、這いつくばっているようにしか見えない姿で歩いていく。葉のような柔らかさも小石のような艶やかさもないアスファルトの硬さがどうにも気持ち悪いので、十歩進んでは舌を出したり首をかしげたりしながらも、決して止まらない。鼻先を漂うものが水の甘い香りのようで、蛙はそれを追っているのである。しかしもう随分と長い時間を歩いているのにその香りは濃くならない。しかし、消えもしないので蛙は止まれないのである。脇をいろいろな靴が通り過ぎていくが、つぶされることなく不思議と生き残っている。
 蛙が歩き続けていると、苦々しいが胸が焦がれる香りがしてきたので、道を曲がり、その香りを辿れば6畳ほどの空き地がビル街にぽかりと開いていて、そこにはどくだみの深緑色が広がっていて、その中に誰かが投げ捨てたのか青いプラスチックの欠けたマグカップがひとつある。その中へ蛙が飛び込むと、ほんのわずかな雨水が彼の足先を浸すので、蛙は帰ってきたとゲコゲコ鳴いた。

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激しく私に吠える犬の声にふりむいたが
犬はいない
ようするにそういうことだ
と、老婆は孫に教える
孫はすべてを悟って頷く
フリをする

相手

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コンクリートジャングル

 山手線の駅名を内まわり順に大声で叫びながらひとりで歩く男が私の目前を通り過ぎる。
 すぐそばの若者が「きちがいかよ」と笑う。
 若者の鋭い声に背筋が凍った私の隣でしゃがむ30を過ぎた我が子は、顔をしかめながらアスファルトのかけらを食べている。

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 鼻が消えてしまった。
 正確に言うと、鼻の穴が消えてしまった。下から見上げても黒い穴はなくなっていて、そこは頬や太ももと同じ肌で塞がれていた。穴がなくなり鼻で呼吸ができなくなったので、いつも口で息をした。だから、大半は口が開きっぱなしで、歯が乾いた。においも嗅げなくなったが、それは次第に別の器官が補うようになった。指をかざせば、甘いとか苦いとか、指先でにおいを区別できるようになった。刺激臭には鼻があったときと同じように反射的に咳がでた。
 私は、この悲しみを友に話した。小さな同窓会の席で、親しい数人が顔を並べていた。
話終わる前に、友は、ふうんと言った。
 不運、と言ったのかと思った。しかし、友はこれに意味を持たせていなかった。ふうんと返事をし、頷いただけだった。
 すぐに別の友人の身の上話に変わった。その場にいた皆が泣いた。私も、涙が止まらなかった。あんなつまらない鼻の話などしなければよかった。恥ずかしさに頬が熱くなり、背中が丸くなった。
 しかし、そうは思いながらも胸の底の方がざわめいていた。
 しかし、しかしそれならば、私の悲しみや苦しみはどこに行けばいいのだろうか、と。

 秋晴れの日。散歩をしていると、どこからか焼き魚の香りが濃厚な煙りと一緒にやってきた。サンマの焦げた皮から染み出した脂が七輪の網を抜けて赤く燃える炭にしたたり落ちる様子が浮かぶ。煙りの出どころを探れば、日に焼けて色あせたオレンジ色ののれんに「はるなつふゆ」と黒い書体が映えていて、つい足が止まった。
ああこれは商いなのだ、洒落ているな、と私は店前で水まきをしている店主らしき男性に声をかける。
「あきない。て読むんですね。こういう洒落た光景を見ると粋だなぁなんてうれしくなります」
 すると店主は「うちはアキナシだよ」とつっかかるような口調で言い放つと、桶と杓子をもって店のなかに入り、乱暴に戸を閉じた。
 店主が背中を向けた際に杓子からこぼれた水はぴしゃりと私の足先間近に線を引いていた。私と店の間に引かれた線を越えるに越えられず、店に入れず、私はなんだかひどく淋しいきもちで、サンマを諦め、肩を落として再び歩きはじめた。 

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秋刀魚

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ジャック

 シャワーを浴びながら、子豚のジャックが今頃何をしているのかと考えれば彼のいない今はひどく寂しく、成長した彼の見た目は既に子ではないだろうし、私ではない誰かはその姿を見ることができても私は出来ないので、存在しているかすら分からない誰かに嫉妬をしたところで、子豚を飼ったことなんてないなあと思う間にお湯と一緒に私は排水溝へ流れていった。
 髪の毛一本残っていないので、この浴室に私が本当に居たのかは分からない。